本丸より (10)

<17ans>

17才の誕生日に、クラスメートの女の子から1冊の本をもらった。
それは、レイ・ブラッドベリの『たんぽぽのお酒』という分厚い本だった。
私はその本をすでに持っていたし、読破していたけれども、
その本を私のために選んでくれたことが、とてもうれしかった。
そして、表紙の間に手紙が添えてあって、
「今日、17才になったあなたが、30才になった時、
どんな女性になっているのか、とても興味があります。
いつまでも、あなたのままでいてください。」
そう、書かれていた。

手元にその本がないし、もう長いこと読み返していないから、
うろ覚えではあるけれども、その本の一節にこういうところがあった。

『人によってはとても若い頃から悲しい気持ちに沈んでしまうものなんだよ。
別に特別の理由があるともおもえないのだけど、
ほとんどそんなふうに生まれついたみたいなんだ。
ひとよりも傷つきやすく、疲れがはやく、すぐ泣いて、いつまでも憶えていて、
わたしがいうように、
世界じゅうのだれよりも若くからかなしみを知ってしまうのさ』

それは、この物語に出てくる屑屋のジョーナスさんの台詞だった。

17才の時、たった1錠の鎮痛剤がきっかけで、
私は極端なアレルギー体質になってしまった。
それ以来、どんなものを飲んでも、簡単にジンマシンが出るようになり、
それを押さえる抗ヒスタミン剤を飲むと、一日中眠くてぼーっとなっていた。

夏の補習の授業の最中に、気分が悪いから保健室に行きますと言い、
歩き出したかと思ったら、そのまま気絶することも何度かあったし、
その頃から、満員の車両で人と接触するのが耐えられなくなり、
腹痛を起こして途中下車したり、気を失ったりしていた。

17才の時、そんなアレルギー体質を改善すべく、
知り合いから勧められた病院に、下校途中に立ち寄っては、
静脈注射の治療を受けていた。
ある日、静脈注射器の中に、自分の血液が少し逆流するのをじっと見ていて、
そのまま気絶してしまい、気が付いたら、診察台に横になっていたことがあった。

そこの先生はまるでジョーナスさんのようだった。

先生は私に言った。
「あなたは、無意識の内にずっと考えているんだよ。
何も考えないでいて、普通の人が一生懸命考えているのと同じくらい、
いつもいろいろなことを考えて、感じているんだよ。
自分では感じていないと思っていても、無意識下ではしっかり感じている。
だから、できるだけ、考えないように、ゆっくりしてごらん」と。

ジョーナスさんが瓶に詰めていた「北方の冷たい空気」
私は今、それがとても欲しい。

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